生活習慣病について
生活習慣とは、食習慣、運動習慣、休養をどのようにとっているか、飲酒や喫煙等の嗜好などがあげられ、これらが「健康的とは言えない」状態であるとき、発症するとされているのが「生活習慣病」です。主なものとしては、高血圧症や糖尿病、脂質異常症、痛風(高尿酸血症)などがあります。
これらの生活習慣病は、その初期にほとんど自覚症状がないため、健診等で指摘されて気づくことが多くなっています。しかし指摘された後も、症状がないために放置されがちで、そうすると動脈硬化が進行し、心疾患や脳疾患など命に関わる病気につながるリスクが大きくなります。
これらの生活習慣病と診断された場合、当院では患者様の病状の進行度合いや生活スタイル、またご要望などに沿いながら、食事療法や運動療法による生活習慣改善の方法や、気を付けるべき点、治療の目標、さらに薬物療法についてなど、お一人お一人に合わせた治療方針を決定し、実施していきます。
たとえば食事療法では、高血圧症の場合、塩分量を制限します。脂質異常症や糖尿病では、脂肪や糖分の摂り過ぎに注意し、食物繊維を多く摂取するようにします。また痛風(高尿酸血症)では、鶏卵や魚卵、アルコールなどプリン体を多く含む食べ物の摂り過ぎに注意します。またどの生活習慣病に関しても、過度の飲酒には注意し、喫煙は厳禁となります。
運動療法については医師の指示に従って、適切に、過度にならないように行うことか重要で、さらに十分な睡眠をとるなどストレスを溜めないことも大切です。生活習慣の改善と並行して、薬物療法を行う場合もあります。その際は患者様の全身の状態も確認しつつ、病気や症状に合わせ適切な薬剤の処方を行っていきます。
主な生活習慣病
高血圧症
高血圧症は動脈硬化を促進させる原因として代表的な生活習慣病の一つです。正常な血圧は収縮期血圧(最高血圧)が120mmHg以下、拡張期血圧(最低血圧)が80mmHg以下とされています。高血圧症と診断される数値は、外来時測定で収縮期血圧が140mmHg以上、もしくは拡張期血圧が90mmHg以上としています。(注:年齢により異なります。)ただ判定にあたっては同条件下で繰り返し測定し、それでも基準値以上になる場合になります。
血液が血管の内壁を押す力が高く、血管が常に圧力を受けた状態、つまり高血圧の状態が長く続くと、血管は次第に厚く、硬くなっていきます。これが動脈硬化です。動脈硬化は大きな血管でも、微細な血管でも起こり、脳出血や脳梗塞などの脳疾患や心筋梗塞、狭心症などの心疾患、大動脈瘤、腎硬化症、眼底出血などを引き起こす原因となります。
もともと腎臓の病気や甲状腺の病気など、血圧上昇の原因となるはっきりとした病気がある場合以外の高血圧症は「本態性高血圧」と呼ばれます。これがいわゆる生活習慣病としての高血圧症で、遺伝的な要因に加えて、過剰な塩分摂取、肥満、過剰な飲酒、精神的ストレス、運動不足、野菜や果物(カリウム等のミネラル)不足、喫煙などの生活習慣が原因と考えられています。ちなみに本態性高血圧は、日本人の全高血圧患者様の8~9割程度を占めると言われています。
糖尿病
糖尿病は血液中の糖の濃度(血糖値)が慢性的に上昇している状態(高血糖)が続いている病気です。血糖値は通常、空腹時に70~110mg/dlくらいで、食事をすると上限は140mg/dlくらいに上がります。これを超えると高血糖とみなされ、慢性的に続くと糖尿病と診断されます。
糖尿病は自覚症状がほとんどありませんが、治療しないでいると血液中の糖とたんぱく質が結びつき、糖化して毒性を持った物質となり、血管の細胞にダメージを与えます。これは全身の大小の血管で起こり、糖尿病による様々な合併症が引き起こされます。大きな血管では高血圧症同様、動脈硬化が促進され、脳梗塞、脳出血、狭心症、心筋梗塞さらには抹消動脈疾患、足病変などを引き起こします。
微細な血管の障害では合併症、特に「糖尿病の三大合併症」と呼ばれる症状が現れます。それは、失明の危険性が高い「糖尿病網膜症」、重症化すると人工透析が必要となる場合もある「糖尿病腎症」、皮膚感覚や胃腸運動、心臓、四肢、顔面等の全身に異常をきたしてしまう「糖尿病神経障害」の3つです。
糖尿病にはⅠ型とⅡ型があり、生活習慣病としての糖尿病はⅡ型に分類されます。Ⅰ型は遺伝的要因などで膵臓からインスリンがほとんど分泌されないことにより発症する糖尿病です。インスリンは体に糖を取り込むために重要な働きを果たすホルモンで、Ⅱ型の糖尿病では、このインスリンの分泌が減少しているか、あるいは分泌されていても、上手く働いていないことが原因となっています。これを「インスリン抵抗性」と言います。
インスリンが減少する、あるいは上手く働かない要因として、「内臓脂肪型肥満」が挙げられています。この状態になるとインスリンがあっても、細胞が糖を効率よく取り込めなくなってしまうのです。好ましくない生活習慣、特に過食や偏食、間食、夜食などは内臓脂肪型肥満に繋がりやすく、さらに運動不足やストレス、過度の飲酒、喫煙なども関わってくるため、これらの生活習慣の改善(内臓脂肪型肥満の解消)が重要になります。
脂質異常症
血液中に含まれるLDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)等の脂質が、一定基準を超えて多く存在する状態のことをかつては高脂血症と呼んでいました。その後、HDL(善玉)コレステロールが基準に満たない場合も動脈硬化を促進させることが判明し、脂質異常症という疾患名になりました。もともとコレステロールは細胞の膜やホルモンになり、中性脂肪は体を動かすエネルギー源となるなど、脂質は重要な栄養素の一つですが、食事からの過剰摂取や、運動不足等で脂質の消費量が減少すると、血液中に余分な脂質があふれるなどして、脂質異常症となります。
診断基準としては以下のようになります。
- LDL(悪玉)コレステロール値
≧140mg/dL(高LDLコレステロール血症) - 中性脂肪
≧150mg/dL(高トリグリセライド血症) - HDL(善玉)コレステロール値
<40mg/dL(低HDLコレステロール血症)
- ※LDL(悪玉)コレステロールは、体の隅々までコレステロールが運ぶ働きをします。
- ※HDL(善玉)コレステロールは、体に余ったコレステロールを回収する働きをします。
- ※中性脂肪(トリグリセライド)は過剰に摂取すると消費しきれず、肝臓や血中に蓄えられ、肥満の原因にもなります。
脂質異常症は自覚症状がほぼないため放置されがちですが、その間も血管の内壁にコレステロールが付着すると粥状の物質ができ、粥状動脈硬化と呼ばれる動脈硬化が起こります。これが進行すると狭心症などを引き起こし、さらに悪化すると粥状に硬化した部分にできていたプラークが破裂して冠動脈が詰まります。さらに心筋に完全に血液がいかなくなることで、心筋が壊死すると心筋梗塞に至ります。同様の状態で脳梗塞や脳出血の原因ともなります。
痛風(高尿酸血症)
痛風とは関節炎の一つで、関節(特に足の親指の付け根など)に激しい痛みや腫れ、熱などが生じるものです。原因となるのは「高尿酸血症」と呼ばれる生活習慣病です。高尿酸血症とは血液中に含まれる尿酸の濃度(尿酸値)が、基準値を超えた状態(血清尿酸値が7.0mg/dl以上)が続いている場合に診断されます。
そもそも尿酸とは「プリン体」を分解した際、産出される老廃物です。プリン体は核酸の主成分で、細胞の代謝や体を動かすエネルギーとして重要な物質のため、ほとんどの生物の細胞内に存在し、そのため多くの食品に含まれています。「旨味成分」としても知られ、特に肉や魚、鶏卵、魚卵、ビールなどに多く含まれています。
通常、尿酸は腎臓から排泄されますが、何らかの原因で腎臓からの排泄が低下するなど尿酸の排泄が低下してしまう(尿酸排泄低下型)、プリン体を過剰摂取するなど尿酸が過剰に産生されるなどして血液中に尿酸が増える(尿酸産生過剰型)、もしくはその両方が原因(混合型)であったりすることで尿酸値が上昇します。尿酸は水に溶けにくく、血液中で余分となった尿酸は針状に結晶化します(尿酸塩)。それが関節に蓄積すると白血球が尿酸塩を異物と判断して攻撃し、炎症反応が起こり激痛を引き起こします。これが「痛風」です。
「痛風」は足の親指の付け根の他、膝やくるぶしなどでも起きます。さらに尿酸塩の結晶が腎臓に溜まると、腎臓結石となります。その結石が尿管や膀胱に移動すると尿路結石となり、これも激痛を伴います。なお高尿酸血症の患者様が必ず痛風になるとは限りません。そのため痛風が起きなければ自覚症状は出にくいです。ただ治療をしないでいると、関節の変形や可動域の制限につながる痛風結節、腎臓結石が慢性化して腎機能の低下、動脈硬化促進による心筋梗塞や脳梗塞といった合併症などを引き起こすリスクが高まるため注意が必要です。